自愛は自己愛(ナルシシズム)とは異なる。自己愛においては自己は対象であり、しかも愛する理由は美醜などの社会的規準に支配されている。また自愛は、自己中心主義(エゴイズム)ともまったく違う。エゴイズムにおいては自己は徹底的に目的化されており、世界のすべては自己利益を追求するための手段となっている。
それに対して自愛というのは、手段‐目的という連鎖の外にあるものであり、社会における相対的な価値とは無関係に自分を大切にし、幸福と言える客観的な理由がなくても、自己の存在に幸福を感じることである。よく「能力はなくても人生に自信を持て」とか「お金がなくても幸せに生きられる」とか言われるが、そいう言い方では全然ダメだと思う。「なくても」なんて言い方には「あるに越したことはないけど」というホンネが隠れているからだ。そういう貧乏くさい説教ではなくて、能力やお金の有無とは本当に、完全に、徹底的に無関係な自愛の感情を伝染させることが、重要なのである。
何も幸福になる理由がないのに幸福だなんて、まるでバカみたいじゃないか、と思う人もいるかもしれない。その通りでいいと思う。ぼくたちは膨大な情報に囲まれて賢くなりすぎているからだ。もう少しバカみたいなところがあった方がいい。