過去に日本企業が日本の文化を背景に成功した例があるという。任天堂の人気ゲーム「マリオブラザーズ」だ。マリオブラザーズは、茶道や枯山水といった日本文化と無縁ではないという。
以前、猪子氏はたまたまお茶に関する本を手に取った。世界中のお茶のことが詳しく書かれた本だった。お茶の飲み方は国によって様々なのだが、どの国もお茶をおいしくのむためにお茶の煎れ方を工夫していた。お湯は何度くらいが適温か、カップはどれくらいの大きさがいいのか、などといったノウハウがどの国にも存在した。お茶をおいしく飲むことを目的にしたノウハウだった。
ところが日本だけは違った。
日本は、お茶を煎れるという手段自体が目的だった。「どういう煎れ方が精神性が高いとか、こういう煎れ方のほうが宇宙とつながれるとか、そんなことが重要。茶碗を3度も回したら、せっかくのお茶が冷めてしまうのに(笑)」。
この手段自体を楽しむということが日本的であり、われわれ日本人は無意識のうちに「目的より手段を楽しむ」ことを追求するところがあるのではないか。猪子氏はそう指摘する。
猪子氏は任天堂のマリオブラザーズの大ファンだと言う。なぜそこまでマリオブラザーズが好きなのかを考えたときに、マリオブラザーズにもこの「目的より手段を楽しむ」という要素が入っていることに気づいたのだという。
マリオブラザーズ以前のゲームのほとんどは、敵を倒したり、高い点数を得ることが目的だった。目的を達成すれば高揚感を味わえ、失敗すれば悔しい思いをするものが、ほとんどだった。
しかしマリオブラザーズは違った。目的に向かって進んでいること自体が楽しいゲームだった。一応得点も表示されるし、ゲームをクリアできる設定になっている。しかしだれも高得点を自慢しないし、ゲームをクリアできなくてもそれほど悔しい思いはない。目的へ向かって進む行為自体が楽しいゲームなのだ。
まるで茶道のようだ。猪子氏はそう感じた。
日本の異能 猪子寿之氏「茶道からマリオブラザーズへ。文化+テクノロジーこそ日本の歩むべき道」